須堂さくら 作
ぽたぽたと、流れる血を拭ったりはしない。
洗い流しても、消えることはないのだから。
「…ちょっと、あんた」
はっとしたように顔を上げ、茜は時雨の方に駆け寄った。
腕の中に眠る若菜と彼を、交互に見る。
「…若菜さんを、頼みます」
「血…血をちゃんと拭いて、早く戻ってきなさいよ」
じろりと茜が睨むと、彼は無言のまま消える。
「…もう、何なのよあの男」
彼の消えたほうを睨みつけて呟いた。
「何であんなに悲しそうなのよ…っ」
彼は、決して帰ってこなかった。
「こんにちは、飛鳥君。呼び出してすいません」
軍の詰め所に呼び出された飛鳥は、若菜を見つけて驚く。
「珍しいな。どうしたんだよ」
「…あの、時雨さんのことで…」
「時雨?どうしたんだ?」
キョトンと飛鳥は若菜を見つめて、彼女は真面目に切り出した。
「しばらく会わないんですけど、何かあったんですか?」
「…あいつは、しばらく昼の仕事が入ってるみたいだ。聞いてなかったのか?」
「……はい。…でも安心しました。何かあったんじゃないかと思ってて」
「それは無ぇよ。あいつだからな」
飛鳥の言葉に若菜はくすりと笑う。
「今も、暗殺業なんですか?」
「あぁ。イマイチ人手不足らしいな。実力はあるし」
「…そうですか。無理をしないように伝えて下さいね。…今日はすいません、それじゃあ」
「あぁ、またな」
「はい」
微笑んで出ていく若菜を見送って、飛鳥は溜め息をついた。
「…いいのかよ、お前はそれで」
キィ、と扉が開いて、紅葉は顔を上げた。
「いらっしゃいませ。依頼デスか?…あれ?」
「お邪魔します、紅葉君。…少し、聞きたい事があって」
現れた若菜に、紅葉はキョトンとしながらも椅子を勧める。
腰掛けた若菜に、笑いかけた。
「どうしたの?若菜ちゃん。呼んでくれたら行ったのに」
「いいえ、そこまでは…。…時雨さんのことで、聞きたい事があるんですが」
「時雨クン?そういえば最近会わないねぇ」
「そのことで、ちょっと相談をしたいんです」
ふ、と息を吐いて、彼女は顔を上げる。
「昼に仕事が入るって、ありえるんですか?」
「お昼に、仕事?」
んー、と考え込んだ紅葉を、若菜はじっと見つめた。
「…結論から言えば、ありえないとは言えないと思う。…ただ、時雨クンの場合は…」
「どうなんですか?」
焦ったような瞳に、紅葉は頷いて笑う。
「ちょっと話が長くなるから、お茶を淹れて来るね。待っててくれる?」
「…時雨クンの実力は、半端なものじゃないんだ。だから、お仕事はより難易度の高いものになる。気付かれる可能性も、抵抗される可能性も、高いお仕事だね。…それなら、夜、できるだけ人目の少ない所で行うのがベスト。現に今までの彼の仕事は、ほとんどが深夜」
黙って耳を傾ける若菜に、続ける。
「中には、パフォーマンスとしての殺しがあるから、昼間の仕事もあるみたいだけど」
「パフォーマンス?」
「うん。…見せしめ、かな。大きく騒がせて、似たようなことをしてる連中への抑制をするんだね。軍隊だから、政治的な関わりもあるし。…でも」
顔を上げた瞳の色は、強い。
「最近は、無い。パフォーマンスなら大々的に騒がせる。それが無いから昼間の仕事はありえない。…それがボクの意見だよ」
「……そうですか」
若菜は俯いて呟いた。
「…私は避けられてるのかもしれない…今更…今更なのに」
ポタリと涙が落ちる。紅葉はそっとハンカチを差し出して、言った。
「…怖いんだね。きっとどうしたらいいのか分からないんだよ」
「…そうかもしれません」
涙を拭って、顔を上げる。
「…すいません。もう平気です。…私、諦めません」
にっこりと笑った瞳は、迷ってはいなかった。
絶対そうなると思った人ー。はーい。
わぁ、いっぱいだぁ(また壊れてますね)
私は王道が好きなのです。
こればっかりは譲れないのさ。
んでもって再び おまけ