新生DREAM

傷痕

DREAM de お題

須堂さくら 作

 最近少しだけ、彼は感情を表してくれる。
「ふぅん、羨ましいことでねー」
 久しぶりに店にやってきた茜は呆れたように言って、じぃっと若菜を見つめた。
「あーあ、いつの間にかラブラブしてるし。あたしとしては、取り残された感じですよ」
「ですから、そんなわけじゃ…」
「ま、オトモダチとしては、あんな危険な男止めときなさい言いたいとこだけどね」
 にっこりと笑う。
「いいんじゃないの?あんた幸せそうだし。あたしはその方が嬉しい」
 それじゃー、邪魔者は退散しまーす。などと言って、茜は店を後にした。
 それを笑って見送った若菜は、店の妙な雰囲気に気付く。
 客は数人の男。いつの間に入ってきたのか。
 そのうちの一人が、自分に近づいてきて、若菜は訝しく思う。
「…あの、何か」
「若菜というのは、お前か」
「…私に用事ですか?」
 不思議に思って問いかけると、男はにやりと笑った。
「悪いが…」
 その先の言葉を聞くことなく、彼女の意識は闇に沈む。

「…やっと来た。遅いわよ!早く来なさい!」
 その日、いつものように時雨がやってくると、店の前で待っていたのは、若菜ではなく、たまに飛鳥と一緒にいる女だった。
 確か、茜という名だったと思い出して、何があったのだろうかと不思議に思うと、がしりと腕を掴まれて店の奥まで連れて行かれる。
「これを読んで、意味が分かるんならさっさと行きなさい!」
 カウンターに置かれた紙、ざっと書かれた言葉。
『女は預かった。倉庫へ来い』
 目を見開いて、時雨はくるりと踵を返す。
「…驚いた。あんな顔もできるんじゃないの」
 ものすごい速さで駆け出した時雨を半ば呆然と見やって、茜はポツリと呟いた。

「何を…する気、ですか」
「なぁに、嬢ちゃんには傷は付けねぇよ。俺たちは単にボスの仇を取りたいだけだ」
「仇…?」
「お前もまさか何にも知らねぇであの男の女になったわけじゃねぇだろ?怨まれる事情なんて、あいつには腐るほどあるだろうさ」
「…人質、ですか?」
 それなら彼に迷惑をかけてしまう。そう思って口にした言葉を、けれど男は笑う。
「カタギの女に手ぇ出すほど落ちぶれてねぇよ。あいつ呼び出す餌にしただけさ。あいつ消したらちゃんと出してやるから、安心しな」
「そんな…止めて下さい」
 睨みつける様にして言うと、男は意外そうな顔をした。
「ほぅ、あの人形のような奴にこんな女がいるとは思わなかったな。俺ぁてっきり…。いや、いいさ、しばらく黙ってろ」
 手刀を落とせば、彼女は崩れ落ちるように倒れる。
 駆けてきた仲間に、最奥の部屋に運ぶ様言って、呟いた。
「あの男が本気になる女はどんなもんかと思って見てみりゃ…」
 にぃ、と笑う。
「中々いい女じゃねぇか。もったいねぇ」
「…来ました」
「そうか。…さて、分かんなくなったなぁ。…あいつが死ぬか、俺たちが消えるか」
 心底楽しそうに、男は笑った。

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