須堂さくら 作
『お前…強くなったんだな』
男が呟いた言葉が、頭の中を回る。
「王子様のお出ましか…」
「若菜さんを…解放して下さい」
「それは出来ない、分かってるはずだろ?」
「…彼女は関係ないはずです」
お互い、睨みあっての応酬。
キン、と冷えた部屋の中、動くものは、いない。
「救って見せればいいさ、でなきゃあの女はここで存在を無くす」
言葉を合図に、バラバラと周りから男たちが出てくる。
「仇、取らせて貰うぜ」
男は身構え、駆け出した。
「あの女」
「!」
血まみれの室内、ぼそりとした声に、はっとして振り向く。
殺しそこなった、と最初に思って眉を顰めた。
…違う、仕事ではないのだ。
「あの女は、お前にはもったいねぇと思ったが…中々、お前も変わったじゃねぇか」
「…何を…言っているんですか」
腹を真っ赤に染めた男は、弱く、けれど心底楽しそうに笑う。
「…あの女のおかげか、中々骨のある女だ」
くつくつと笑って、腕を上げた。指差した先に、ドアが見える。
「奥の部屋へ行け。…眠らせてある」
無言で踵を返す彼の後ろに声が掛かった。
「お前…強くなったんだな。出会いが人を変えるとは、よく言ったもんだよ」
声に答えず、彼は扉の向こうに消える。
残された男は、やがてゆっくりと、動いた。
「殺さずに仕留めるか…中々できる芸当じゃねぇ…無意識か」
静かに扉が開く、部屋の真ん中に倒れている若菜を見た瞬間、頭が冷える感覚。
「…若菜さん」
声は頼りなく闇に消え、彼女からの反応は返ってこない。
静かに胸が上下しているのが命の証明。
そっと抱き上げた体は、思ったよりもずっと軽くて。
その頼りなさに、はっとした。
彼女は弱い、あまりにも。
おそらく、自分が知っている誰よりも。
失う恐怖を、初めて覚えた。
いや、大したものじゃありませんが。
私としては、敵さんたちがどうなったのかが気になります。
どうも、本物の悪役(?)を作れないのは私の悪いところです(悪いとこばっかだな)