須堂さくら 作
本当は、側にいたい。
「飛鳥君。お願いがあります」
次の日、若菜は再び飛鳥を呼び出した。
手には、お弁当。
「これを時雨さんに渡してください。それと、伝言を」
「若菜…」
「怖がらないで下さいと」
にっこりと笑って、彼女は立ち上がる。
呆然とする飛鳥にまた来ると告げて、立ち去った。
「…あー、どうすんだよ、時雨」
「……会えません」
若菜が出て行ったのとは別の扉、真逆にあるそこから、彼は姿を現す。
「そりゃあ、気持ちは分かるけどな…」
「…僕にはこれしかできません」
「……お前さぁ、なんつーか、変わったよな」
他人を心配して動けない彼なんて、見たことは無かった。
「とりあえず、良く考えてみろよ。…お前が守るって選択肢だってあるんだぜ?」
無言の彼を見やって、飛鳥は溜め息を落とす。
毎日、若菜はやってきた。
元気ですか。無茶はしないで。体を大事に。
そんな、なんでもないような言葉と一緒に、弁当を渡す。
いつもいつも、微笑んで。
飛鳥がそれに耐えられなくなって来たある日、やってきたのは茜だった。
ムスッとした顔で、飛鳥に弁当を押し付ける。
「風邪気味だったから布団に押し込んできたの。代わりに届けに来てやったから感謝しなさいよね」
「あ、茜?」
「無理をしないように。だってよ?…いっつもそんなことしか言わないんでしょ?どうせ」
「まぁな」
彼女はぎり、と唇を噛んだ。
「…それしか言えないのよ。あの子は優しいから。…どうせいっつも聞いてんでしょ?それであんたがどう思うかなんてあたしには分からない。けど若菜の思いなら分かる」
「茜」
制すような飛鳥の声色に、けれど茜は黙らない。
「責任ぐらい、果たしなさいよ!若菜はあんたが無事ならそれでいいって笑うのよ?ホントは寂しいくせに、自分じゃ駄目みたいだからって笑って…それで泣くんだわ。誰もいないとこで、一人きりで、自分責めて泣くのよ!」
「茜っ!」
肩を掴まれて、はっとして茜は一瞬口を閉じた。
じろりと、扉を睨みつける。
「…あんたがいないと駄目なのよ。…もう、手遅れなのよ…。会ってあげて。…もう、見てられない。…辛そうなのを、見てられないのよ」
「分かったから。な?」
「…無理して笑う生活なんて…幸せなはずないわ」
俯いて呟かれた言葉が、胸に突き刺さった。
何か、茜ちゃんが大活躍?
あら、困った。(何だ)
多分次で終了です。