新生DREAM

傷痕

DREAM de お題

須堂さくら 作

 無事ならば、それでもいいと…。

「…昨日はすみません。茜さんから聞きました」
「いや、俺は…」
 口ごもる飛鳥に、彼女は微笑む。
「私、もう、来ませんから」
「え?」
「…本当は、迷惑なんじゃないかなって思ってたんです。茜さんが昨日随分暴れたって聞いて、申し訳ないなって…」
「若菜…」
「もう、綺麗さっぱり忘れます。…すぐには無理だと思いますけど。…無事で、元気でいてくれるんなら、私はそれだけで充分」
 俯いた彼女の表情は見えない。
「会えて良かったと思います。しばらくの間とっても幸せでした。…でも……さようなら」
 顔を上げた彼女は、やっぱり笑顔だった。

「…おい」
 低い声が部屋に響く。
「…おいって。…ガラじゃねぇことさせるな。行ってやれよ」
 静かに扉を開けて、驚いた顔の彼に言った。
「今行ってやらなきゃ、あいつは不幸だ。分かるだろ?…どっちがいいかぐらい、分かるんだろ?…とっくに、分かってたんだろ?」
 言葉に彼ははっと顔を上げ、ちらりと飛鳥を見る。
 それから、駆け出した。

「待ちなさい甲斐性なし!」
 自分に向けられた聞き覚えのある言葉に、時雨は立ち止まる。
 黒髪の彼女は、怒りの視線を彼に向けた。
「どこに行く気よ、どこに若菜がいるかなんて分かんないんでしょ」
 言って、指差す。
「真っ直ぐ行って、丘の上の木。不幸にしたら許さないからね!」
 駆け出す背中に怒鳴って、彼女は笑った。
「ちゃんと、幸せにしてちょうだい」

 はぁ、と溜め息をついて空を見上げる。
 よくもまぁ、あんな嘘が自分の口から出てきたものだ。
 元気でいるなら充分?忘れる?…そんなの嘘だ。
 忘れられるはずがない。あれだけ一緒にいて。
 側にいてくれないと、こんなに不安だなんて思ってなかった。
 …だけど、もう会えない。
 それを決めたのは、他でもない自分。

「きゃあっ」
 突然、引き寄せられて思わず悲鳴を上げる。
 声に驚いたのか、一瞬びくりと強張った体は、けれど彼女を抱きしめて離さない。
「だ…誰…」
「…行かないで下さい」
「…し、時雨さん…?」
「…離れたり、しないで下さい」
 答えの代わりに降ってきた言葉に、涙が溢れた。

「どうしたらいいか分からなかったんです。あなたに傷ついて欲しくなかった」
「…私は平気です。側にいられるなら。…守って、くれるんでしょう?」
 涙に濡れた目で彼を見上げると、彼は僅かに顔を赤くする。
「……守ります」
「約束ですよ?」
「はい」
 真面目な声に、ようやく、若菜は微笑んだ。

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2004/09/24 公開

や、やっと終わりました。いやぁ、疲れたですよ。長くて。
そこ、全然長くなかったとか言わない。
私からしたら長いんだよぅ。
何か色んなイベント入れたら長くなっちゃって。
ホントは小春ちゃんネタも考えたかったんだけど…。
思いつかなかったから彼女はちょっと…ごめん。
あー、とりあえず完結ー。
後は伏線を拾って番外を書きます。
拾い切れない伏線を張るのは止めようよ…。
えーと、今回、若菜ちゃんに「時雨さん」と言わせたくて考えたんですけど。
それだけかよってそれだけです。
あ、あとね、押しが強くて常識知らずな時雨君。
出逢ってすぐ告白(?)したり、高いプレゼント贈ったり、あと何だ?
まぁ色々。
んで、王道を書きたかったのね。
で、あっためてた暗殺者ネタを使おうかなと思って。
DREAM用にちょっと設定をいじりました。
書くのは楽しかったです。だって王道。
たまにはいい王道。
陳腐でもいいじゃん有効ならさ王道。
…でも、あんまり王道っぽすぎるのは嫌だったので、ちょっと色々考えました。
疲れたぜ…!(何だ)
ちょっと設定気に入ったんで、番外増えるかも。