須堂さくら 作
『ごめんなさいね、いつ帰れるか分からなくなっちゃたのよ』
電話越しの伯母の声に、胸騒ぎがした。
「…あ」
近づいてくる彼に、若菜ははっとした。
ぼんやりしている間に、いつの間にか昼を過ぎてしまったらしい。
不思議そうにしながら店に入ってくる時雨に、若菜は困惑した視線を向けた。
「…何かあったんですか?」
「いいえ、あの。すみません。お昼を…」
「…何があったんですか」
じっと見つめてくる瞳に、心配そうな色が混ざる。
「いえ、その…ちょっと考え事をしていたので」
「…若菜さん」
その言葉に若菜ははっと顔を上げる。名を呼ばれたのは初めてだ。
じっと見つめてくる瞳に、若菜は俯く。
「店を、閉めますから…その後、話を聞いて下さい…」
「…私の父は、十年前に戦争で死んだんです」
血だらけの体を、綺麗にする間もなく、父の体は帰ってきた。
「母は、父の死体を見て…意識を失いました。そして、目が覚めたときには、父のことを、全て忘れてしまっていたんです」
出会ってからの全てを。当然、生まれた自分も。
「…それで、私を見たら、そこから全てを思い出して…狂ってしまうかもしれないと、言われて…私は伯母に引き取られました」
「…母親に、会いたいんですか」
静かな声に、はっと顔を上げる。
「…不安に、なって。何もないんだとは、思うんですけど」
「会いに行きましょう」
「っでも、私…場所も知らないのに」
「…何か手がかりがありますか」
「写真が…一枚だけ」
家の前で親子で取った写真。いつも財布に忍ばせているそれを、取り出して渡すと、時雨は僅かに眉をひそめた。
「三日程休めますか」
「え?分かるんですか、これで」
「…行きますか?」
ちらりと見た顔は、真剣そのもので、若菜は小さく頷いた。
「…お願いします」
慌ただしく準備をして、その日最後の電車に乗った。
「…どこに向かうんですか?」
「…国境近く、自治の村」
「そこに、母が?」
頷いた時雨に、ほっと息を吐く。
「そこに…いるんですね。…でも」
「…会えませんか」
「…だって、私、母には幸せでいて欲しい」
「…分かりました」
「え?」
時雨の言葉を不思議に思って聞き返すけれど、彼はその言葉の意味を語る代わりに問いかけてきた。
「眠くありませんか」
「…えぇと、そんなには」
色々考えちゃって、と笑う彼女をじっと見て、時雨は何も言わずに肩を引きこんだ。
反転する視界に驚くと、心配そうな瞳とぶつかる。
「し、時雨さん!?」
「…眠っていないでしょう」
図星を指されて黙り込む。気付いたら朝になっていて、慌てて店を開けたのだ。
「…眠って下さい」
「え、えぇ?でも、時雨さんは…」
「…僕は平気です」
さっと、視界に手をかざされて、もう一度、眠ってください、と言われる。
膝枕などされては寝付けもしないように思えるのだけれど、言われた通りに目を閉じれば、気付いた時にはいつの間にか朝だった。
はいちょっと中途半端で切ります。
長くなるから。
時雨くんの男らしさを堪能したい…(え)
膝枕好きー。男の子のちょっと硬いのもいーよね。
…何か色んな人に引かれた気がした今。
んでもって おまけ
見なくっても全然問題ありません。むしろがっかり?