傷痕
DREAM de お題
須堂さくら 作
「時雨さん、お買い物とかってするんですか?」
「…道具などは」
「道具?」
「仕事の…」
「あ、あぁ…えっと、お洋服とかは」
おずおずと尋ねると、時雨は僅かに首を傾げる。
「…軍から、たまに支給されます」
「自分で買っちゃいけないんですか?」
「…いいえ」
「じゃ、じゃあ、今日のお礼に何かプレゼントします。…あんなに高いのは無理ですけど」
言うと、彼の無表情の中に、不思議そうな色が浮かんだ。
「えぇと、迷惑じゃないなら、ですけど」
慌てて加えると、時雨はキョトンとしながらも、迷惑ではないと言ったので、若菜は安堵する。
そしてキョロキョロと辺りを見回し、一軒の店を見つけてそこに入った。
「いらっしゃいませ。…あら?あなたはこの間の」
「こんにちは。この間は飛鳥君がすみません」
店に入ると、気付いた店員が声をかけてくる。
この間、飛鳥が財布を忘れて来た時に、応対していた店員だ。
あの時、突然呼び出されて驚いてやって来た若菜に、彼女は申し訳なさそうに、けれど可笑しそうに笑ったのだった。
「いいえ。それで今日は、彼氏の服でも買いに来たの?」
「そ、そんな、彼氏とかじゃ…。あの、服を選んで欲しいんですが」
「あら、いいわよ?…好みはどんな感じかしら?そんな服?」
時雨に向かって問いかける店員に、彼は首を傾げる。
無言の彼に慌てて、若菜は口を開いた。
「えぇと、おまかせでいいですから」
「そうなの?んー、これだけかっこいいと、何でも似合うから迷っちゃうのよねぇ」
そして、あーでもない、こーでもないと言いながら店をパタパタと回って、いくつかの服を持ってくる。
ひとつひとつ体に当ててみながら、彼女は首を傾げた。
「んー、そうねぇ、やっぱり皆似合うわよねぇ。…どうするかしらね」
ひらひらと舞う服に、時雨は嫌そうな表情になる。
店員は気付いていないらしく、いくつもの組み合わせを試していた。
「あ、あの、この組み合わせとか、どうでしょうか」
「んー、そうね、これが一番かしらね、試着する?」
ちらりと視線を向けると、彼はやはり首を傾げた。
「…えっと、いいです。お会計、いいですか?」
「そう?分かったわ」
外で待っていてくれ、と声をかけて、若菜は店員について行く。
洋服を綺麗に包みながら、ちらりと外を見やって、店員は笑った。
「ずいぶん無口な人なのね」
「…そう、ですね」
「でも、いい人みたい」
「え?」
キョトンとする若菜に、彼女はいたずらっぽく笑ってみせる。
「あなたを見る目、とっても優しかったわ。妬けちゃうわねぇ」
「え、あの」
「それにうちの商品着てくれる人は皆いい人よ。私はティナっていうの。どうぞご贔屓に。…下の階で女物も扱ってるから今度はどうぞ」
「あ…はい。ありがとうございます」
じゃあね、と笑う彼女にぺこりとお辞儀をして、若菜は店を出た。
ぼんやりと立っている時雨に、袋を手渡す。
「…ありがとうございます」
「いいえ。…いつか、着て下さいね」
「…はい」
頷く彼に、微笑んだ。
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