須堂さくら 作
「…昨日は、すみません」
次の日、いつもの様に二人でお昼を過ごしていると、突然時雨がそんなことを言う。
彼が自分から話し出すなんて珍しいな、などと思いながら、若菜は顔を上げて笑った。
「いいえ、お仕事だったんでしょう?」
「…はい」
「だったら、仕方無いことです」
申し訳なさそうにする時雨にそう言うと、彼は顔を上げる。
それから、小さな箱を差し出した。
「…知り合いに、お詫びをするべきだと言われました」
「それで、これを…私に?」
「…はい。何をしたら良いか、分からなかったんですが」
「…あの、開けても?」
「はい」
真っ白な包装紙をカサリと解いて箱を開ける。
中から出てきたのは、シンプルで上品な、ネックレス。
「これ…」
驚きに目を見張る若菜を、時雨は不思議そうにじっと見つめた。
「も、もらえません、こんな…」
「嫌でしたか」
「そうでは…ないですけど」
「…じゃあ、もらって下さい」
「でも、こんな高いもの…」
言って、手に取ったネックレスを見つめる。入ったロゴは、町で一番高いブランド。
お詫びどころか、プレゼントとしても、簡単にもらえるものではない。
「…嫌いですか」
「いいえ、嫌いってわけじゃ…でも」
「もらってくれませんか」
ふと、声に混ざった悲しげな色に、若菜は一瞬何も言えなくなる。
「…あの」
意を決して、呟いた言葉は、意外にも弱い。
時雨は首を傾げて、彼女を見つめた。
「…これは、もらいます。…でも」
ネックレスを箱に戻して、言う。
「これからは、こんな高いもの、こ、困ります。…私、もっと、些細なものでいい」
「…些細なものですか」
「私、ちゃんと無事で、それで謝ってくれて…。それで充分です」
「…そうですか」
「…でも、あの。…嬉しかったです。これ、ありがとうございます」
「…いいえ」
ふと、声に混ざった柔らかいものに、若菜は頬を染める。
『笑ってくれたら嬉しいんだけどなーとか思ってるんでしょ?』
…本当に、好きになってしまったのかもしれない。
「…あの、今日、お仕事は」
「ありません」
「じゃあ、少しお買い物しませんか?」
ちょっと金銭感覚がおかしいような気がして、少しだけ気になる。
「…分かりました」
それじゃあ、片付けてしまいましょう。と、若菜は立ち上がった。
貰いたい。貰ったら即売りたい…。
金が欲しい…(荒んでる)
いや、常識の無さ加減を表したかっただけなのですよ。
常識無さそうに見えたらいいんだけど…(オイ)