須堂さくら 作
「あ、若菜。ほんとにいたし」
「茜さん…。お久しぶりです。どうしたんですか?」
「うん。ちょっと飛鳥に伝言頼まれてさ」
「伝言?」
首を傾げる若菜に、茜は頷く。
「そう。時雨は行けないって。何でも突然仕事が入ったらしくてさ。…で、若菜」
じろりとした視線に、若菜はますます困惑した。
「いつの間にあんな男と仲良くなってたのよ」
「あんな、男…」
「だって知ってるでしょ?あの男……」
キョロキョロと周りを見て、はぁ、と溜め息をつく。
「とりあえず。お弁当余るでしょ?あたしが食べるから、話聞かせて」
久しぶりに一緒に食事しようよ、どうせ余るんだし。という茜にくすくす笑って、若菜は家の鍵を開けた。
「あー、おいしかった。あんた料理の天才よね」
「そうですか?」
「そうデスよ?あの男が毎日これを食していると思うと、何か怒りがこみ上げてくるわね」
「そんなこと…」
「飛鳥から聞いたわよ?あの男、あんた見た瞬間に告白みたいなことしてきたんでしょ?何ですぐ断らなかったのよ。好みだったわけ?」
茜が早口に言って、若菜は困ったように考え込む。
「…別に好みだったってわけでもないんですけど…そもそも、見ただけじゃそんなもの分かりませんし」
「で、今じゃお弁当まで作ってやって毎日デート?」
「デートってわけじゃ…毎日いらっしゃって、店で立ちつくされるよりは良いと思って」
「あんた、来るなって頼んだ?」
問われて若菜はキョトンとした。
「いいえ、だってお客さんだし」
「お客ったって、買わないし読まないんでしょーが。追い出してやりなさいよそんな男」
「…あの、茜さん」
「何よ?」
「…時雨さんと、知り合いなんですか?」
首を傾げて聞いてくる若菜に、茜は溜め息をつく。
「知り合いっていうか、しばらく飛鳥と一緒でさぁ。何かあいつに会うたびにいるんで、妙な男だと思ってただけよ。無表情だし、無言だし」
「…そうですか?」
「は?」
「いえ、まぁ、確かに、あんまりしゃべってはくれませんけど、驚いたり悲しそうだったりしますよ?笑った所は見た事ありませんけど」
無言で、茜は若菜を見つめた。
なんとなくその視線が呆れたもののように見える。
「茜さん?」
「…気に入ってんじゃないの」
「え?」
「…あんたってホント、そういうトコ鈍いっていうか…」
はぁぁ、と大げさに溜め息をついてみせて、茜は頬杖をついた。
「まぁ、百歩譲って好きじゃないとしてもよ。気に入らなきゃそんなわざわざ表情観察したりとかしないって」
「別に観察してるわけでもないんですけど」
「でも、笑ってくれたら嬉しいんだけどなーとか思ってるんでしょ?」
「誰でもそうだと思いますけど」
「あたしは思わないわよ」
「…そうですか?」
「……まぁ、いいわ、とりあえず、頑張って」
「?…はい」
そこで茜は話題を変えたので、若菜は何も言えなかった。
茜ちゃんに「あの男」って言わせたかった(何)
こういう友人も素敵かと。
何かそればっかりだ。