須堂さくら 作
カラカラと小石が落ちてくる。
そのうちのいくつかを体に受けながら、茜はぎゅっとつぶっていた目を開けた。
…意外と、痛くない。
「……って…嘘っ!」
背中に感じた人の感触に、驚いて飛びのく。
痛くないのもそのはず。誰かに抱きしめられて落ちたのだ。
そういえば、落ちる瞬間に自分の名を呼ばれた気がした。
「……どうして…」
振り返った茜は思わず呟く。
「飛鳥…?」
未だ気を失ったままらしい彼の名を呟いて、右袖が真っ赤に染まっているのに気付いた。
「あ…」
息を呑む。
真っ赤な血、開かない目に頭が冷えた。
「違う違う違う。大丈夫…大丈夫。…どうにかしなくちゃいけない」
自分に言い聞かせるように呟いて、彼の方に駆け寄る。
しゃがみこんで腕を取ると、彼は一瞬顔をしかめた。
一瞬動きを止めた茜は、頭を振って袖を裂く。
「っ…あー!もう!だから、止血っ」
わざと大声で言って彼女は処置を始めた。
「…………」
薄く目を開くと、真横に人の気配がした。
「…飛鳥」
声にぱちりと目を開ける。
ちら、と視線を横にやると、茜が泣きそうな顔でこちらを見つめていた。
「あー……」
泣くなよ、と手を伸ばそうとして、初めて痛みに気付いた。
「…いってぇ……」
仕方なく左手をついて起き上がる。
再び茜を見つめて、尋ねた。
「…お前、怪我、ないか?」
「あっ…あたしは、全然。…ってあたしなんてどうでも良くてっ!」
「良くねぇよ、何のために庇ったんだ。…ま、怪我がないんならいいよ」
へらりと笑う彼を、茜は恨めしそうに見つめる。
「あ、あたしがどれだけっ…。…大体、何であんたがあんなとこにいたのよ!」
そうなのだ。
今日は依頼が終わって、最後の一泊をこちらで過ごしていて。
暇だからと、この辺りの人に聞いた場所を走っていたところだ。
誰にも言って来てはいないし、コースなんて適当だから分かるはずなんてないのに。
「んー…何だろうな」
ぼんやりと的を射ない飛鳥の言葉に茜は溜め息をつく。
けれど実際、彼にも良くは分かっていないのだ。
呼ばれた気がして。だけど誰もいなくって。
嫌な予感がしたから何も考えずに走ってきた。
「…虫の知らせって…こんなもんかなー」
「何よ、それ」
「勘だってことだよ」
「ますます分かんないわよ。…んで?動けそう?」
茜の口調が呆れたものに変わる。
けれど瞳は心配そうなままで、飛鳥は苦笑した。
差し出された手を掴んで立ち上がる。
「…平気なんじゃねぇ?微妙に痛いけど」
「なら、さっさと戻ろうよ。あたしどうしたらいいか分かんなくて適当にしただけだし」
言われて腕を見てみれば、なるほどいっぱいいっぱいな感がある。
思わず笑いを洩らした飛鳥に、茜は頬を染めた。
「笑わないでよ!どうせあたしは不器用なんだから」
「いや…ありがとな」
「……うん」
今度は素直に頷いて、笑う。
彼は、ちゃんと生きてる。
サラリと撫でた風に、なぜだか安心した。
2004/10/09 公開
え!?そこで終わり!?とか言わないように。
もうむしろこれが私の書き方ですよ諦めて下さい。
今回直パソ書きという暴挙に出てみました。
意外といける事が判明。
ただ、見直し工程がうまく進まないんだな。
慣れたら平気かな。
…ってそんな事はどうでもよくて。
何しろ時雨×若菜しか書いてなかったのでこいつ等も。
と思って書いてみました。
ちょっとベタやったかな。まぁいいかな。
背景とか考えないで読んでくれていいです。
おいおい分かってくると思うような思わないような。
恒例の(?)おまけに入ります。
今回は「その後」ですね。
そして今回も出番が無い紅葉と小春…。
どうしよう。
おまけ