須堂さくら 作
1
「…あのー、それでちょっと提案なんですが」
そっと体を離して言うと、若菜はきょとんと首を傾げた。
「僕、今日はあなたを帰したくない気分なんですけど。…僕の部屋に来てくれませんか?」
「…部屋、隣ですよ?」
「えぇ。ですけど、離れていたくないんです。あ、別に若菜さんの部屋でもいいんですが…駄目ですか?」
「…………いいえ。行きます。…私も…」
離れたくないから。そう言う若菜に笑って、彼は彼女の手を握る。
宿に向かって歩く二人を、風がそっと撫でていった。
2
飛「ど、どうしたんだ?時雨」
茜「何か気持ち悪いわよ、あんた」
時「えぇ?そーですか?」
朝、にっこにこと笑う時雨に-彼は笑っていること自体が珍しい-気味悪そうに2人が声をかける。あまり効果がない。
小「嬉しそうだねー」
紅「何かいいことがあったの?」
時「そうですねー」
答えているのかいないのか良く分からない返事に、4人は顔を見合わせる。
茜「…も、もしかして…」
振り返る視線の先、じろりと時雨を見るひとつの影。
飛「若菜、お前…」
若「……ちょっと後悔してますよ。認識不足でしたね」
はぁ、と溜め息をついた若菜に、その場の全員が事情を悟った。
小「えっと、おめでとう。でいーのかな?」
紅「そうだね、良かったねぇ」
飛「お前ら、頼むからこれ以上にはしないでくれ」
茜「あー、だめ、何か全然聞こえてない」
全く対照的な2つの対応。もちろん、飛鳥と茜だって良かったと思わないわけではないがなにぶん機嫌が良すぎてアヤシイのだ。
そこに、朝食の皿を運んできた若菜がうんざりと一撃を加えた。
若「時雨君、早くその気持ちの悪い顔をやめないと、外に放り出して二度と中に入れませんよ」
時「わっ、若菜さん。今のちょっと僕本気で傷ついたんですけど」
若「好都合ですから、これからもどんどん傷ついちゃってください」
時「若菜さぁん…」
いつも通りの応答に、とりあえず時雨のコレは長く続くわけではなさそうだ、と
時雨には悪いと思いながらも、飛鳥と茜はほっと胸を撫で下ろしたのだった。
2004/09/01 公開
1 ホントは本編に入ってたんだけど、どうも毛色が変わっちゃうなぁ、と思って削った部分。
2 あまりにも時雨くんがありえなさ過ぎるので、無性に書きたくなってしまった話。
さてさてどうでしたでしょう。あぁあぁ石を投げないで。
もー、台無し。とかそんな傷つくこと言わないで。
分かってるから(オイ)
えぇと、まぁ、あえて多くは語りませんね(逃げ)