新生DREAM

告白

DREAM de お題

須堂さくら 作

 キィ、と扉の開く音がして、時雨は読んでいた本から視線を上げる。
「…若菜さん?」
 扉のところに立っていたのは自分にとって特別な彼女で、いつも-特にこうした何でもない日には-見ない真面目な表情を、疑問に思う。
「こんばんは。…あの、少し時間を頂いても?」
「?…はい」

 若菜は彼を連れて林を抜け、高台へと歩を進めた。
 そこから下を見下ろすと、花街の灯がまだ明々としていて、思わず見とれる。

「…時雨君」
 若菜の声に、あぁ、何か話があったのだった、と時雨は黙って、若菜を見つめた。

「私は…ずっと、あなたに父を重ねていました」
 言葉に時雨は首を傾げる。それはいつだったか聞いた言葉だ。
 けれど口を挟むことはせずに、続きを待つ。

「…あなたは優しすぎるから、私にはそれが辛かった」
「え…」
「本当に、優しすぎたんです。…だから」
 言葉は揺れる様で、なのに彼女の表情は、闇に紛れて良く見えない。

「甘えそうになる自分が、怖かった」
「…若菜さん?」
 彼女の意図が掴めなくて、思わず名を呼んでしまうけれど、若菜はそれには応えない。
「甘えてはいけないと、そう思いました。…甘えたら、私が崩れてしまいそうだった。

…だから、気持ちに蓋をしました。私はそんなに強くなかったから」

 だけど、と彼女は言葉をつなぐ。

「限界…なんです。私は、もう、一人じゃ立てない。もう…嘘はつけない…」

「若菜…さん」
 引き寄せて、抱きしめたい衝動。それぐらい彼女は儚く見えて、だけど体が動かない。

「父を重ねたのは、あなたを見ることができなかったから…。蓋をしたのは…あなたを傷つけて、それで離れられるのが怖かったから…。私はきれいな人間じゃなくて…だから…」

 時雨は目を見開く。
 するりと、彼女の唇から、小さく言葉が零れ落ちた。

「…あなたを…好きになるのが、怖かった…」

「っ…!」
 弾かれたように手を引いて、欲するままに抱きしめる。
 若菜はびくりと大きく震えて、けれどそのまま動かない。
 消えてしまいそうな彼女に、時雨は抱きしめた腕にほんの少し力を込めた。

「…若菜さん…若菜さん、僕は…」
 ゆるゆると息を吐いて、時雨は言う。
 僅かに身動きした彼女に、言葉を続ける。

「僕はあなたが好きです。本当に、好きです。…でも、そのことがあなたを苦しめていたなんて知りませんでした。―――――思っても、みなかったんです」
 突っぱねるように若菜が動いて、まともに視線がぶつかった。
 辛そうに見つめる彼女に、けれど視線は逸らさない。

「優しいのは、あなたの方です。優しすぎるのは、あなたです…。僕はあなたのために傷つくのなら、構いません。あなたが無理をして、壊れてしまうことのほうが怖いんです」
「そ、んな……駄目です…。駄目…」
 頑なな言葉に、時雨は苦笑する。
「…そうやって、全てを一人で溜め込んで、全て一人で片付けようとして…良く、今までそうやって…それでも、笑っていられましたね…。だけど今のあなたは…こんなに崩れてしまいそうです…」

 そっと頬に触れると、若菜は肩を震わせた。
「駄目ですよ。若菜さん…。駄目です。僕を好きになって下さい。僕を好きになって、それで…楽になってしまって下さい。全て吐き出して下さい」
 彼女は驚いた顔をして、しばらくまじまじと時雨を見ていたが、やがて俯いた。
「そんな…そんな、事…」
「…僕を好きになってくれませんか?…若菜さん」
「っ…」
 弾かれるように顔を上げた彼女は、困ったような顔で首を振る。

「若菜さん?」
「好き…です。…あなたが名前を読んでくれる声が、笑ってくれることが…優しい事が…!皆、皆好き…。好きなんです…っ」
 半ば叫ぶようにして吐き出された言葉に、時雨はほんの少し驚いて、それから微笑んだ。

「…だったら、僕は、あなたの側にいます。もっとずっと色々な所を好きになってもらいます。…僕をあなたに、あげますよ」

 すっと、浮かんできた涙がひとすじ、若菜の頬を流れ落ちる。
 時雨はもう一度、そっと彼女を抱きしめて、彼女の腕も、一度迷って、彼の背に回される。
 そして、彼女はそっと、目を閉じた。

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2004/09/01 公開

終わりかよ!等の苦情は受け付けますけど気にしないことに決定!
どうもお世話になっております。さくらでっす。
告白っていうお題を見た瞬間に、これは彼ら以外にありえないと確信しました。
いや、いつかは3組とも書きたいと思ってたけど、お題で来たら、やっぱ彼らだろうと。
…実は今回、私大分「書かされ」ました。
今までも確かに無かったことではないけど、今回は特殊です。全てにおいて書かされてます。これ私の文章じゃないかもしれません。
まず若菜さんがしゃべるしゃべる。ホント勝手にしゃべりまくる。
んでもって、時雨も欲望のまま動く動く。しかもあんなとんでもないこと言いやがる。
私、大分彼女たちを誤解していたようです。
どうしましょう。今までの作品を元にしてこれを書くつもりだったのに、これを元にして今までの作品を修正する羽目になりそうです。
まぁ、いいけれども。
まだあげてないしね!(オイ)
イヤでもびっくりしたのさ。私の頭の中に無意識のうちにできてたものがあったのか、
ほんとに何かが舞い降りてきたのか。…分かりませんが、考える間もなく文章ができていくってすごいネ!(何なんだ) 時雨はへたれてなきゃ時雨じゃないよぅ。
何なんだよ、私に怨みでもあるのかよぅ(違)
…あ、何かもうちょっと書かなきゃいけない気がするのと、私が書きたいのがあるからおまけ行ってもいい?
あー、しんどかった。

おまけ