須堂さくら 作
いつものように用事を済ませると、若菜は時雨の座っている隣に腰掛けた。
ちらりと視線を上げた彼と目が合って、何となく不思議な気分になる。
明日のその日を迎えて、目に見えて変わる何かなんてないのは分かっているのに。
それともそれこそが、この不思議な感覚を生んでいるのだろうか。
「…若菜さん?」
静かな声に顔を上げる。
視線の先で首を傾げるのは、一生を共に過ごそうと、決めたその人。
「どうか、しましたか?」
問い掛けてくる声に、微笑んだ。
「いいえ。…不思議な感じだな、と思って…」
この気持ちに名前をつけるとすれば、自分は一体何と呼ぶだろう。
自分にもこんな日が来ると、考えなかったわけではないけれど。
やっぱり少し、妙な感覚がする。
「…多分、心が変わるんだと思いますよ」
「え?」
「今日までよりずっと…若菜さんと一緒だっていうことが強く感じられるんだと思います」
推測ですけど、と苦笑する彼に、ほんの少しだけ擦り寄った。
何となく、そうするのが一番良いように思う。
「…あの?」
困惑したような声をくすりと笑う。
「もう少しだけ…近くにいても、いいですか…?」
否定なんてされないと、知っていて尋ねるのは罪悪だろうか。
―――――予想通りの返事に、それでもやっぱり安心して、彼の肩に頭を預ける。
「…私…幸せだって思います」
「…?何か言いましたか?」
目を閉じて小さく呟いた言葉の端だけが届いたのか、彼が上げた声の柔らかさが心地よい。
「…時雨君がこうやって側にいてくれて、安心できて……とても、幸せです」
それはきっと、自分がずっと欲しかった確かなぬくもり。
安心できることがこんなに幸せだなんて、知らなかった。
「…僕も」
そっと肩に回された手の温かさ。
「幸せです。…本当は明日に言うのが正解なんでしょうけど」
視線を合わせると、微笑んでくれる。
「…きっとあなたをずっと、幸せにします」
これからのことなんて知らないけれど、きっと今が今までで一番幸せな瞬間で。
ずっとそうやって、いられたらいいな、と、ぼんやり、思った。
2005/04/22 公開
やった。私はやったぞ…!!(何を)
というわけで『幸せのみつけかた』でした。
リクエストを受け付けてて一番いいのは苦手なことに立ち向かえるってことですね。
今回のリクエストは愛華様より
時雨と若菜で甘々な二人だけの世界(結婚前夜)
若菜視点で時雨くんにメロメロ
…きゃー!!
若菜ちゃん視点というのが、自分的一番苦手ポイントです。
まぁ、若菜ちゃんの1人称でとかだったら…。うわぁ怖い。
ので張り切って書かせていただきましたー。
短いとかそんなこと言っちゃいけないですよ。
もうここまで来て内容の話はどこまでも言い訳になりそうなので(いつもそうだろ)やめて。
タイトルのお話ー。
『幸せのみつけかた』元ネタは…、分かる人には分かるはず。
とっても好きな本からタイトルをアレンジさせていただきました。
…ばらしちゃまずいか。いいか?…いいよな。
えーと、どこまでリクエストに沿えているのやら謎ですが。
ていうかどうもこれガタガタな構造な気がするけど…(オイ)
キリリク感謝感謝です。