新生DREAM

報われない努力

DREAM de お題

河崎玲 作

「飛鳥君、一体僕の何処が駄目なんでしょうか…」

 ことの始まりは溜息混じりに呟かれた時雨の一言だった。
 彼は日々、思い人若菜に対し、しつこいほどの熱烈な愛を注いでいる。
 それが行き過ぎて、いきなり抱きつこうとしてしまったり、唐突に愛していますと口走ってしまったり、あまり宜しくない方向性で暴走してしまっている。
 問い掛けられた飛鳥は、そりゃお前の行動全部だろうと言い掛けて、寸での所で胸中に収めることに成功した。
 それが事実であれ、今時雨にその言葉を突きつけるのはいささか哀れだ。
 実際問題、暴走して可笑しな行動をしなければ見た目も悪くなく、頭の回転が速い。
 だがしかし、その長所を突き崩してしまうほど若菜バカなのだ。
 冷静沈着、美男子、寡黙な男であったなら寄って来る女は履いて捨てるほど居るだろうに。どうして、こう、こいつはこんな風になってしまったのだろうか。
 考えていると自然、飛鳥の口から溜息が漏れる。
「時雨クンはねぇ、押しっぱなしだからいけないんだよ。」
 ひょっこりと紅葉が顔を出した。
 その言葉に時雨がゆっくりと顔を動かし紅葉のほうを向く。
「ほら、よく言うでしょ?押してダメなら引いてみろって♪」
「いや、こいつの場合、引く事は無理なんじゃねぇか?」
「飛鳥君、実行する前に無理とか言わないでくださいよ」
「じゃぁ、お前一週間若菜と目を合わせるのも禁止って言われたらどうする?」
「死ねますね」
 死亡理由、若菜と目を合わせるのを禁止されたから。
 時雨だとありえそうで正直怖い。しかもきっぱりはっきり言ってのける辺り、時雨らしいといえば時雨らしいのかもしれないが。
「三人ともどうしたの?」
「あ、小春ちゃん、あのね、時雨クンが、自分の何処がダメか分かってなくて、押してダメなら引いてみようって話してたんだよ」
「若菜ちゃんとの事?」
「そう」
 小春は紅葉に話の流れを聞くと、いきなり目を輝かせた。
 飛鳥と時雨はその顔に一瞬身体が強張る。恐らく何か良からぬ事が起きる前触れに等しい顔だ。
「それなら時雨くんが二枚目の色男になれば解決じゃないかな♪」
「二枚目の…」
「色男、だぁ?」
 小春の言葉に時雨と飛鳥は微妙な反応を返す。
「僕って十分二枚目じゃないですか。」
 さらりと時雨は言ってのける。
「時雨クン、何言ってるの?時雨クンは三枚目、だよ?」
 笑顔で爆弾を投下したのは紅葉だ。確かに、こと若菜に関して、彼は三枚目の痛い男になるのだが、それを笑顔で言ってのける紅葉も相当たちが悪いといえるだろう。
「紅葉君…」
 その一言が時雨の胸にぐさりと突き刺さる。隣に座っていた飛鳥は無言で時雨の肩を叩いた。
「っかし、小春、時雨が色男になるってのは無理なんじゃねぇか?」
「そーなんだよね、何でこんなにヘタレさんなんだろうね、時雨くんは」
「ヘタレ…」
 今度は小春の言葉が時雨の胸に突き刺さる。いつもの事だが散々な言われようだ。
「時雨クンはもうちょっと自分を抑えられるようになれればいいと思うんだけどなぁ」
 頭の後ろで手を組みながら紅葉が言った。
「好きな人に触れたくなるのは自然の摂理じゃないですか」
「自然の摂理かも知れないけど、時雨くんはそれが暴走しちゃうからいけないの!それにここだって時にヘタレちゃうんだもん」
 それじゃいつまでたっても三枚目さんだよ、と小春は言う。確かに普通に今この場に居る面子との接し方と若菜への接し方は明らかに違う。
 普通の時も有るにはあるのだが、一度スイッチが入ってしまえば最後。暴走するより他には無いのである。
「常に若菜ちゃんに普通に接していられるようにまずは努力してみる事、かな?」
 可愛らしく小首を傾げて紅葉が言った。
 もっともな意見である。
「・・・・・・」
「飛鳥くんどうかした?」
「いや、何でもねぇよ」
 変なのーと言いながらも小春は追求しようとはしなかった。

 飛鳥には分かっていたのだ。いかに平静を装い普通に接していようとしても必ず失敗するという事を。
「報われねぇ奴」
「?」
 小さく零した飛鳥の言葉は時雨の耳に引っかかったが聞き取れはしなかったらしい。
 付き合いの長い飛鳥だから分かる事なのだが、別に若菜は時雨を嫌っているわけではない。
 本気で嫌っているならば時雨自身が立ち直れないくらい精神的な痛手を既に食らっているだろう。
 時雨自身も気付いていない事を飛鳥の口から言うのは憚られ、彼は口を紡ぎ窓の外へ視線をやった。
 ああ、今日も言い天気だ。
 丁度買出しに行っていた若菜と茜が帰ってくるのが見える。
 さて、時雨の我慢はどれだけ続くのだろうか。

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2011/07/02 公開

後書き
おはこんばんちわ。新ドリ作者の一人、河﨑 玲です。
お題を見て、これは時雨で書くしかないと。
本当はもっと若菜にめっためったにされるのを予想していたのですが、なんだか勝手に動いてくれてこんな結果になりました。
その分作者が酷い事を言っているのは、貴方の胸に仕舞って置いてください。