河崎玲 作
ボクは知らない
昔の君のこと
ボクは知らない
君の瞳が誰を見ているのか
ボクは知らない
君の気持ちを…
「よく考えなくても…知らないことばっかりなんだよね」
木陰に寝転び溜め息をつきながら、紅葉は一人ぼやいた。
青々と茂る若葉は、紅葉を慰めるかのように揺らめいている。
暖かい日差しの中、彼の心は氷のように冷たく、思考の海へと彼を容赦無く引き込んでゆく。
紅葉は枕代わりに腕を組むと、ふわりと瞳を閉じた。
「知らないから知りたいのかな…」
う~んと唸り紅葉は眉根を寄せる。
「どこか違うんだよね、好きだから」
知りたいという言葉は声にならず、口だけが動いた。
紅葉は、はあっと溜め息を吐くところんと体を横に向け、膝を曲げる。
ふと目を開くと小さな花が一輪、自分の方を向いて咲いていた。
ちょん、と軽く弾くと花はふわりと揺れた。
「飛鳥君」
遠くで若菜が飛鳥を呼ぶ声。
そちらに目を向けると、飛鳥が若菜に歩み寄るところが見えた。
何を話しているかまでは聞こえないが、紅葉は複雑な想いを抱える。
飛鳥と若菜は仲が良い。
幼馴染みと言うのだろうか。
飛鳥と若菜は意外と良く話す。
話すことのほとんどがDREAMへと届けられた依頼や、金銭的な面の話だったりするのだが。
紅葉は何の話だろうと考えながら若菜をじっと見ていた。
「紅葉君?どうしたんですか?」
いつの間に横に来ていたのだろうか。
先程まで視線の先に居た人物は紅葉の隣に腰を下ろす。
「あ…若菜ちゃん」
隣に来たのにも気付かないほど、紅葉は思考の海へと潜り込んでいたらしい。
「悩み事ですか?」
足を横に崩して座り込んだ若菜は、膝の上に手を置くと苦い笑みを浮かべる。
「そんなとこ…かな」
若菜の膝に頭を擦り寄せるかの様に、紅葉は移動した。
紅葉の弱々しい声色に軽く瞠目すると、紅葉の頭を軽くポンポンと叩く。
呼ぶために頭を叩いたのではないと分かっていたが、紅葉は若菜の方に顔を向ける。
優しい微笑み。
「悩みがあるのならば相談に乗りますよ?」
紅葉は相談する事なのか、と苦笑いを浮かべる。
むしろ、自分の考えを若菜に告げる時点で相談とはかけ離れたものになる感もある。
逆に自分の気持ちを伝えられるこの好機を逃すのも、正直惜しい。
紅葉は顔を俯けると、若菜のスカートの裾を軽く掴む。
「若菜ちゃんのね…」
もし自分の言うことを否定されたら…考えても仕方の無いことが頭をよぎる。
「若菜ちゃんの目にはボク…ちゃんと映ってる?」
問い掛けて後悔をする自分と、これからどうしようと冷静に考える自分の気持ちが頭の中でぐるぐると回る。
「映っていますよ。」
若菜は瞳を伏せ、微笑みながら紅葉の柔らかな髪を撫でる。
「分からないことも、知らないことも一杯なんだ」
言いだしたら止まらないかもしれない。
だが自分の中にある心の闇に引きずり込まれるわけには、いかない。
無意識に若菜のスカートの裾を掴む手に力が入る。
「分からないことや、知らないことがあれば、これから知っていけばいいんですよ」
髪を撫でる若菜の手は止まらない。
「私にも、分からなくて知りたいことが沢山あるんですから」
「そうなの?」
若菜を伺い見たら、えぇと言われて微笑まれた。
「無理に急ぐ必要がありますか?ゆっくりでも大丈夫ですよ」
若菜の柔らかな笑顔が見られれば、それでいいかもしれない。
「大好きだよ?若菜ちゃん」
分からないことばかりで
不安だけど
もどかしいけど
今は若菜ちゃんの笑顔が見れて満足だから…
でも、いつかはきっと
ボクが独り占めしちゃってもいいよね?
2005/11/25 公開
後書きという名の謝罪
あ~…皆様お久しぶりでございます。
何書いてやがるんだと思われてもスルーしてください(汗)
書いてみたかったんです。
書けないかなぁと思っていましたが、紅葉は意外によく動いてくれました。
ブラックがご降臨されても、若菜なら普段と変わらぬ態度でスルーしそうですが(笑)
では、またお会いいたしましょう
2005.11.24
玲