須堂さくら 作
キミにはどんな歌が聞こえているんだろう。
村を見渡せる小高い丘の上、コロンと寝転んだ紅葉は目を閉じる。
この場所を見つけたのはラワンに来てすぐで、誰が手入れをしているのか、綺麗に整えられた芝生に寝転がるのは、彼の、それから小春のお気に入りだった。
目を閉じた紅葉は芝をさわさわと風が撫でていく音を聞きながら、昔に思いを馳せる。
仲間達に出会った日に。
…彼女達に出会った頃、自分の周りの音は、いつも暗く沈んでいた。
自分に投げられていた暗い言葉達に、だんだんと周りの全てが侵食されていっていた。
朝目覚める時の小鳥の囀り。自分の名を呼ぶ前に母親が立てる食器の音。大好きな音のそれぞれに、責めたてられていた。いつの間にか。
そんな自分に、彼女達が光を与えてくれた。
出会ったばかりの自分のために怒って、そして「自分」を受け入れてくれた。
どんな自分だって、笑って受け入れてくれる、認めてくれる安心感を、家族以外できっと初めて。
それもあんなに短い間に与えてくれた。
きっと、それはものすごい幸運。きっと、二度目はないから。
だからその日から、受け身でいるのはやめた。
自分が自分でいても、皆離れない。自分が自分でいなくっちゃ、皆に対して失礼だから。
自分が自分でいることで、皆を信じている。
「…紅葉くん…?」
突然、隣に気配を感じて、彼は目を開いた。
人が近づくのに気付かない位、思考の中に沈んでいたらしい。
悪い癖だなと内心苦笑して、紅葉は隣で膝を抱えて自分を見つめている少女の名を呼んだ。
「小春ちゃん」
にっこりと笑うと、彼女も嬉しそうに笑い返してくれる。
紅葉はよいしょと起き上がって小春に向き合った。
「おはよう。小春ちゃん」
「ん…?おはよう。紅葉くん、眠ってたの?」
「うん。そんな感じ、かな」
曖昧な言葉に、彼女はキョトンと紅葉を見つめ返す。
「眠ってた時のコトを思い出してたんだよ」
「眠ってた時?」
「うん。ボクの周りの世界が皆眠っていた時」
言うと彼女は、そっか。と
「…ね、小春ちゃん」
「うん」
覗きこんでくる緑色の綺麗な瞳。まるでこの丘にある全ての緑色を吸い込んでしまったみたいにその色は深い。
「もし、世界が眠っても、小春ちゃんは起きていてくれる?」
「うん」
「…約束だよ?」
「うん。ずっと紅葉くんの隣にいるよ。手を繋いで、一緒にいようね」
ふんわりと、小春は笑う。
…いつからか、彼女に恋をした。あるいは最初から、惹かれていた。
何にでも一生懸命で、意外と行動的で、笑うと花が開いたみたいに可愛くって。ずっとずっと、一緒にいてくれて。それはきっとこれからも一緒で。
だからね、小春ちゃん。
ボクは受け身でいるのはやめたんだ。
だってそんなの、ボクじゃないでしょう?
だから、小春ちゃんのコト、ずっとずっと繋ぎとめておくから。
紅葉はきゅっと小春を抱きしめて、そのままの勢いで再び寝転がる。
彼女は一瞬驚いた声を上げた後、楽しそうに笑った。
「お昼寝?紅葉くん」
「うん。世界が元気だから、ボクたちは安心して一休み」
「そうだね」
互いに抱きしめあって目を閉じる。
聞こえるのは風の音、鳥の声。遠くには人の声。それから、近くには僅かに伝わってくる鼓動。
ねぇ、世界はこんなに音に溢れてるんだね。
そしてボクたちを包みこんでくれてるんだね。
キミとボクの音はおんなじじゃあないけれど、ボクにはキミの音がとっても良く聞こえるんだ。
これって幸せだね。
だからね、小春ちゃん。
ボクは幸せが好きだよ。ずっとずっと好きだよ。
だから、小春ちゃん。
ボクはキミが、とっても大好きなんだ。
―――――私もだよ。って小さな
2006/09/29 公開
ものすんごく久し振りにこの2人の物語を書いた気がするな…。
あ、皆様お久し振りです。さくらです。
さてさて、今回はちょっとばかり紅葉くんの過去に触れた作品となりました。
まぁ、ホントにほんのちょっとだけですが。
シリアス&ほのぼのって感じですかねぇ…。
私は紅葉くんは精神的に早熟そうなイメージで書いてます。
この年の男の子にしては大人っぽそうなイメージ、でしょうか。
だからこそ、女の子と対等でいられる、みたいな。
他の2組は完全に尻に敷かれてる感じだけど(誰が誰にとは敢えて言わんが)
この2人は、2人一緒に歩いてる感じがするんですよね。
あくまで私的なイメージですが。
…で、今回の作品の話を少し位しなくては。
若干黒さが滲んでしまった気もしますがその辺りには目をつぶって下さい。錯覚です(オイ)
2人の恋の始まりっていうのは、私にも良くは分かりません。他の2人なら分かるかしら…?
紅葉くんは生きていることを大事に思ってる人だと思います。
そういう人は優しいけれど残酷です。
純粋だからこそ複雑です。
小春ちゃんの物語はまぁまた今度の機会に。
…この2人を書くのは、ホントに疲れるんだ…。