須堂さくら 作
トントン、と小さく聞こえたノックの音に、飛鳥は目を覚ました。
上体を起こした彼は、大きく伸びをして布団から抜け出す。
僅かにひんやりとした空気が纏わり付くのを感じながら、ドアに手を掛けた。
「…っ!」
扉を開くと、涙目の顔と目が合う。一瞬びくりと肩が揺れて、真っ赤な頬で彼女は彼を見上げた。
「…どうした?」
「~~~~…」
少しずつ眠気を意識の端に押しやりながら尋ねると、彼女は俯く。
…いつものことだ。
仕方ないなと笑って、彼は彼女の手を取って部屋へと招き入れる。
握った手は、すっかり冷えていた。
こういう時は、わざと電気を消して机の上に乗ったランプに火をつけることにしている。ぼんやりと浮かび上がった部屋の暗さに目が慣れるまで待って、彼は彼女、茜に視線をやった。
「…今日も夢でも見たのか?」
「………ん…」
普段の彼女はどこへやら。ずっと黙ったままで、先程からほとんど声すら聞いていない。
「内容は?…話したくないか?」
けれどもそれもいつものことなので、飛鳥は気にせずいつも通りに問いかける。
ここで話をするのなら、それを聞いてやればいい。しないなら…、別のことを話せばいい。どちらかは、彼女が決めることだ。
「……血が、血がね、止まらなくて。…あたしは、何も出来なくて。…だんだん冷たくなってくのよ。…それだけが、分かるの。…あたしは必死なのに、その人が誰かさえ分かんなかった」
今回は話すことにしたらしい。たっぷり悩んで言葉にしたのは、断片的な夢の記憶。
途中に言葉は挟まない。それはまるで逆効果だ。
震えた声で紡ぎ出された言葉が、少しずつ少なくなって。それから少しずつ声が落ち着いて来た頃に、彼は一言だけ告げる。
「…俺はここに居るからな」
それでまるで儀式めいたそれは終わる。
苦い顔の茜の言葉と一緒に。
「…悔しい…」
それだけで安心してしまう自分が。
「悪かったな。お前も毎回枕持参でご苦労なことだよ」
「…もういい、帰る」
「帰るのか?」
ふいと顔を背けた彼女の後ろに声をかけると、彼女はうぅだかぐぅだか良く分からない声を上げた。
「そーゆーとこが、ムカつく」
…どーゆーとこだ。
内心でツッコミを入れながら、黙ったままで茜を見つめていると、彼女は振り返って枕を顔に押し付けてくる。苦しい。
「っぶ…っ!」
「仕返し」
「いや、ワケ分かんねぇから」
最後に投げつけるサービスまでして、彼女はさっと布団に潜り込んだ。
投げつけた枕を奪い取って、ぽんぽんと叩く。
「言っとくけど、アンタが寂しそーな声出すからだからね」
「はぁ?」
「あたしのためじゃないのよ。アンタのため!」
本当に、良く分からん。
「はいはい。アリガトウゴザイマス」
「誠意が感じられません!」
「何だそりゃ」
むっつりと言うその様がおかしくてクスリと笑うと睨まれた。理不尽だ。
「んじゃ、感謝するから、俺のため、な?」
「んな、ちょっ…」
ぐっと引き寄せると驚いた声が上がる。案の定身体は冷たい。
「お前実は冷え性?」
「知らないわよ!」
ノックをするか否かでずっと悩んでいたことも、その後も何だかんだうだうだと葛藤していたのは何となく分かっているけれど、飛鳥はそんな風にからかい気味の言葉を掛ける。
「ま、いーか。…おやすみ」
「…ん」
この冷え切った体が温まる頃には、彼女は眠りについてしまうから。
それまでずっと抱きしめていよう。
それがこの勝ち気な人にできる唯一のことだから。
2006/10/07 公開
ぐわー!なんだこのニセモノチックな飛鳥くんはー!
時雨辺りが乗り移ってるのか?大丈夫か?
…てなわけで、飛茜でほのぼのを目指してみました。
…撃沈しました。
お題もちょっと分かりやすくしたかったのに、これ分かり辛いな。
いいかなぁ?まぁいいか、今に始まったコトじゃないしネ!(駄目だろ)
全体的に飛鳥くん視点ですが、言い訳をしてるのは茜ちゃんです。
誰が何と言おうと!(やっぱ駄目だこの人)
たまには優位な夜もある。みたいな?うふふふ(キモイ)
何だかんだで茜ちゃんは意地っ張りなので甘えるのは苦手さん。
でも、怖い夢見たとかそんなことで大好きな人のとこに来ちゃう子供っぽさ。最高です!(大丈夫か)
そして何だかんだで優しい飛鳥くんも最高です!(全然駄目だこの人)
時期的にはもう少し寒くなってからのイメージです。
そんなこんなで微妙にニセモノチックな2人をテンション高くお送りしました。