新生DREAM

未来予想図

DREAM de お題

河崎玲 作

 あれから何年過ぎただろう。
 DREAMが解散していつからか付き合いだした二人、時雨と茜は結婚していた。
 冒険の日々に身を置いていた幼い自分達には、今の現状は考えもしなかった事なのだ。
 あの頃は、お互い心に決めた相手がいた。
 それは夫婦となった相手ではなく、同じ旅の仲間だった人物。
 心から愛していた。
 ともに人生を歩み支えていきたいと思っていた。
 だが、その気持ちの矛先は今や夫婦となった相手へと一心に注がれている。
 思い起こせば何とも不思議な事だろう、と茜は声を出さずに笑った。
「何かいいことでもありましたか?」
 夕食のスープを口に運びながら、茜の正面に座る時雨は微笑んだ。
 正直茜の料理は上手くなく、作ったのは今食べている彼自身なのだが…
 茜よりもはるかに料理が上手い。
「まあね」
 茜も食事を取りながら笑った。
 時雨もふっと微笑むと止めていた手を動かしだす。
「時雨はさ…あたし達が結婚するなんて思ってた?」
 少しの間を置いて唐突に茜は言葉を発した。
 俯き加減で時雨には表情が分からない。
 時雨は苦笑いを浮かべて口を開く。
「正直、思ってませんでしたね…」
 時雨の言葉に茜は悪怯れもなく笑うと、一度目を瞑りその黒い瞳を和らげた。
「あたしもよ」
 やっぱりですか?と時雨は笑う。
 彼女のその切り返しは予測の範囲内だったのだろう。
「昔が懐かしい気もしなくはないけど…あたしは今が楽しいし幸せだって思う」
 少し頬を赤らめながら言う彼女の言葉には、偽りも何も無いのだろう。
 照れを隠しながらもそう気持ちを伝えてくれる彼女が愛おしい。
 その気持ちはいつからか時雨の心に生まれ、今では彼の大部分を占めている。
「懐かしい気持ちは僕にもあります。」
 時雨は昔よりも大人びた笑みを浮かべる。
「明るすぎて困るくらい茜さんは元気でしたし、飛鳥君は毎日ボロ雑巾にされていたし…」
「紅葉は普段子供っぽいくせに妙に大人な部分があったのよね…変なトコで腹黒いし」
 茜は拗ねた子供なような顔をする。
 時雨はそんな茜を見てくすくす笑うと言葉を続けた。
「小春さんは…あれですね…」
 言って困ったとでも言うように眉根を寄せる。
 茜は何を言わんとしたのか理解したのだろう。
 彼女自身も小春に振り回され色々な意味で痛い思いをしている。
「女装させたい病ですね」
「女装癖」
 時雨と茜の言葉が重なった。
 発言した言葉の違いに二人は首を傾げる。
「茜さん、小春さんは女性ですが…」
 ちなみに誤解が無いように言っておくが、小春は正真正銘の性別は女。
 女装癖と言った茜の発言には語弊があるだろう。
「そんなの分かってるわよ?」
 だが茜には未だ理解が出来ていないようだ。
 そんな茜に時雨は言葉を続ける。
「そもそも女装癖というのは女装する癖の事ですので、女装させる側の小春さんには当てはまりませんよ」
 昔の苦い過去を思い出してか時雨は苦虫を噛み潰したようなような顔をする。
 確かに彼も小春の遊びの餌食になっている。
「あぁ…そうね…」
 少し考えて茜が言った。
 頭に浮かぶのは嫌々ながら女物の服を着せられていた飛鳥と、出来栄えに満足そうに満面の笑みを浮かべる小春。
「あんたは若菜にベタ惚れだったわね」
 くすくす笑って茜は言う。
「妬けますか?」
 時雨も笑いながら首を傾げる。
 きっと彼女が嫉妬することはないのだろうけれど、あえて彼はきいた。
「別に?いい青春だったんじゃない?」
「確かに青春ですね」
 今の自分達には眩しいくらいに輝いていた。
 毎日が良い思い出で色褪せるということがない。
 茜はふっと微笑むと大きくなったお腹に手を当てた。
 生まれてくる日も、そう遠くはないのだろう。
「この子もあたし達みたいに旅するのかしら」
 離れてしまう不安と立派に育ってほしいという想いが交差する。
「するでしょうね。僕達の血を受け継いでますから」
 それに、世界を見てほしい。
 色々なことをその目で見てほしい。
 時雨は言葉を紡いだ。
「この子どっちににるかしら」
 愛おしそうに茜はお腹を撫でる。
 性格が正反対の二人。
 どちらに似ても育てるのは至難の業かもしれない。
「冷静な茜さんとか?」
「がさつで元気な時雨…って可能性もあるわね」
 二人は顔を見合わせて笑い合う。
 生まれてから育つまで、その答えは誰にもわからない。
「元気に旅をしてくれるならそれでいいわ」
 ひとしきり笑って茜は言った。
 そうですね。っと時雨は微笑む。
 いつか出会えるわが子を想いながら二人はしばらく笑い合っていた。

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2005/03/27 公開

後書きという謝罪
はい、こんにちわ~玲です。 なんというかとうとう書いてしまいました。
個人的に時雨×茜好きです。
よく現代物を書くと茜が時雨を好きで、でも時雨は若菜を愛していて…という悲恋が多いです。
むしろそれ前提でしか書いていなかった気も…
ええとどうだったでしょうか?このサイト初の異色カップリング。
時雨×若菜好きの皆様、飛鳥×茜好きの皆様ごめんなさい(土下座)
楽しんでいただけたならさいわいです。

2005.03.26