須堂さくら 作
「おい、時雨、ちょっと買い物に付き合わないか?」
飛鳥の言葉が、彼に光をもたらした。
「…どこに行くんですか」
「ん?あぁ、俺の幼馴染がいる店なんだけどな」
お前、本屋とか行った事ないだろ?と言う飛鳥に、肯定の返事を返して、彼は歩く。
ほんの少し疑問だ、この男はどうして自分と行動を共にしようとするんだろうか。
別にそれが嬉しいとも、嫌だとも感じないのだけど、他の誰とも違うその関わりを、不思議に思う。
彼が、自分を重ねているのだとは、気付くはずもない。
どこか世を捨てていた自分の少年時代を思い出してしまうのだなんて。
彼女に会って、それが消えて、彼にもそうなってくれたら、と思っていることも。
「…ここだよ。ちょっと―――――」
飛鳥の指差した先、店の入り口のガラス越しに、女が見えた。
客の相手をしているらしい彼女は、ふわふわと微笑んでいる。
客を見送るためにか、扉を開けた彼女と、目が合った、そんな気がした。
「時雨?」
飛鳥の不思議そうな声も聞こえないように、彼は歩調を速める。
ぺこりとお辞儀をして、客を見送った彼女が顔を上げた。
今度こそ本当に目が合って、若菜は微笑む。
「いらっしゃいませ」
そのときに、何を思ったかなんて分からない。
「あなたは…」
「はい?」
声に、僅かに不思議そうな空気が混ざる。
思い出したのは、一度だけ見た彼女。
忘れていた、彼女の姿。
ザァ、と、雨が降る。
仕事の帰り道、それで血はほとんど流れてしまっていた。
「…あの」
一体どこを歩いている時だろう。
後ろからの声に、はっとして彼は振り返る。
そこに立っていたのは、髪の長い少女だった。
そっと傘をさしかけられて、彼は僅かに首を傾げる。
「風邪を、引きます。使って下さい」
言って、傘を押し付け、それからはっとしたそぶりを見せた。
「あの、どこか怪我をしているんじゃ…」
時雨が僅かに身じろくと、彼女は顔を上げた。
真っ白な肌、心配そうな瞳が、さ迷う。
月の光だけではよく見えないのだろう。
「大丈夫ですか?血の臭いが…」
「…大丈夫です」
それだけ答えると、彼女は息を吐いた。
「そう、ですか…」
じゃあ、と彼女はタオルを彼の肩にふわりとかけて、パタパタと駆けて行く。
近くにあったらしい家の扉を開けて、微笑んだ。
「…気をつけて下さいね。おやすみなさい」
パタンと閉じた扉を、彼はほんの少し不思議そうに見つめる。
それから、再び歩き出した。
そのことを覚えているようには見えない。
もし覚えていたとしても、顔など見えてはいないだろう。
だけど、自分は知っている。
彼女にほんの少し、興味を持った。
また会うなんて、思っていなかったけれど。
「…会いに来てもかまいませんか」
「え?」
それは彼女が、彼を知ったその瞬間。
2006/03/05 公開
いかん、ノリで仕上げてしまった。
出会い編でっす。
本当は他キャラの話も書こうと思ってたんだけど、それより先に上がっちゃったんで。
あー、ちなみに、時雨くんが若菜ちゃんを認識したのは
何年か前の話です。
何で起きてたんだろうね、若菜ちゃん。
多分、テスト勉強とかしてたんだよ。
何が言いたいんだろうね、自分。
まぁね、ほら、私だし。
しばらく色々ノリでいくかもしれません。いかないかもしれません。
いかんな、ホントに気に入ったかも、この設定。